こんにちは、てつやまです。
このたび、八重野統摩(やえのとうま)さんのミステリ小説『同じ星の下に』を読みました。
《作品情報》
・書名:『同じ星の下に』
・著者:八重野統摩(やえのとうま)
・出版社:幻冬舎
・頁数:328
1.この本のここが凄い!
「この誘拐犯が、本当のお父さんだったらいいのに」
【誘拐犯との奇妙な日常。虐待少女の幸福とは?】
なぜこの本を読んだのか?
雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年11月号の新刊紹介にて知りました。
誘拐犯と人質とは、ある意味、特殊な環境下でのコミュニケーションとなります。
そこで、人質側の感情が、犯人に好意的になるという現象を思い出しました。
※「ストックホルム症候群」
誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く現象。(デジタル大辞泉より)
しかも、誘拐された少女は、家庭内で虐待を受けている疑いがあり…
というあらすじを読んで、面白そう!と感じました。
2.かんたんあらすじ
虐待を受ける少女が誘拐される
誘拐犯が、家族よりも優しくて困惑する少女
さらに、赤ちゃんだった頃の少女を、だっこする誘拐犯が写る写真が見つかる
誘拐犯が、実のお父さんだったら良いのに…
心に響いたフレーズ
「ハンバーグならそれほど手間もかからないし、挽肉も玉ねぎもあったはずだ」
→人質少女が「なにを食べたい」か誘拐犯に聞かれ、無意識に「ハンバーグ」と応える。
それに対する誘拐犯の一言。
こんな普通の会話を、誘拐犯と人質との間でかわされていると想像しただけで、クスリと笑えました。
しかし同時に、少女の身の上を考えると、こんな当たり前の応対も、イレギュラーなんだなあとも感じました。
渡辺さんが本当のお父さんで、そういう理由でわたしを誘拐して、その結果として刑務所に入ることになるのは、嫌だな
→人質少女の想い。誘拐され、誘拐犯の渡辺(仮名)との情が生まれている証拠。
家族とでは育まれなかった、【相手への情】が、誘拐犯と生まれるというのは、少しせつないですね。
親と喧嘩できるのは、親のことが怖くないからだ
→クラスの子たちが、親と喧嘩した話をしている。その際、主人公の少女が思ったこと。
正直、どきりとした。
確かに、いくら親のことを嫌っていても、「どんなこと言っても見捨てられない」という想いが根底にある。
しかし、主人公の少女には、その前提がない。
それがいかに悲しいことか。
わたしと渡辺さんは人質と誘拐犯の関係で、それなのに二人でクリスマスを祝おうだなんて
→いよいよ身代金の受け渡し、つまりこの誘拐関係の終焉。
最後に、クリスマスを祝いたいと呟く人質少女。
それに、驚きつつも、応じる誘拐犯・渡辺(仮)
わずか数日間の、歪な関係性で育まれたイレギュラーな情愛。
しかしその情愛は、確実に積もっている。
3.まとめ
読んだことで得られたポイント
家族との関係性に悩む人におすすめな作品です。
家族とはなにか。
一緒に住んでいても、全く情が湧かないこともあり
その一方で、誘拐犯と人質の間柄で、情のようなものが生まれることもあります。
情愛は、【間柄】ではなく、単純な【想い想われる】ことで育まれる。
行為自体は間違っていたのかもしれません。
しかし、その情愛自体を、間違っているものと決めつけることは、誰にもできないと感じました。