
こんにちは、てつやまです。
このたび、遠藤彩見(さえみ)さんのミステリ小説
『左右田に悪役は似合わない』を読みました。
《作品情報》
・書名 左右田に悪役は似合わない
・著者 遠藤彩見(さえみ)
・出版社 新潮社
・頁数 238
1.この本のここが凄い!
華はないけど、腕はある!
長年端役で芸能界を渡り歩いてきた「おじさん俳優」
目立たぬ中での、優れた観察眼!
芸能界の中でおこる「謎」に、絶妙に立ち回る!
なぜこの本を読んだのか
雑誌『ダヴィンチ』新刊紹介にて本作品を知りました。
芸能界という特殊環境におけるミステリ。
その珍しさから興味を抱き、読んでみました。
2.かんたんあらすじ
名探偵、その正体は――無名の中年俳優だった! ?
ベテラン俳優・左右田始は名の知れぬ脇役。
しかし、その“脇役”ゆえに見えてくる真実がある。
低予算ドラマの撮影中に起こる騒動から、輝かしいレッドカーペットの裏で隠された真実まで。
彼が紐解くのは事件だけではない。
業界の「あるある」を合間で見せつつ、
夢と現実が交錯する芸能界の本質をも浮き彫りにしていく作品。
心に響いたフレーズ
神崎はセリフの度重なる変更が面倒臭いのではない。怖いのだ。NGを出すのが。
現場の流れ、スポンサーの要望などで、当初のセリフが変わることがありうるドラマ現場。
そして、突然の変更に応えて、覚えなおさないとならないのは、とても過酷でシビア。
それによるNGを出そうものなら・・・
タイトなスケジュールでNGを連発してしまうと、現場の冷たい視線が突き刺さる。
私自身、人の視線というのは、過敏に反応してしまうタチです。
臨機応変が求められ、私なんかでは、とても手に負えないなあ、と感じました。
この章の動機は、芸能界の謎、ミステリ独特なものだなと思いました。
※章タイトルの「消えもの」…俳優が劇中で使う小道具で、使ってなくなってしまうもの。再利用できない物を指す。ガムやタバコをはじめ、食事のシーンで使う食べ物、飲み物、演出効果として使うドライアイス、ローソク、さらには、口紅を折る、手紙を破る、瓶を壊すシーンがある場合は口紅、手紙、瓶がそれに該当する。( ©土地活用の東建コーポレーション ALL RIGHTS RESERVED エンタメール 舞台用語辞書より)
「いや、左右田に悪役は似合わない」轟は少し考え、そして続けた。「そうだな、刑事とか弁護士とか医師とかー『し』や『じ』のつく役がいい」
本作品ラストの頁。最大手芸能事務所の社長・轟のセリフ。
事務所の女優のピンチを救い、そしてなぜか最近話題にのぼっている「左右田」の名前。
彼への恩義、そして現場の潤滑油としての期待から、部下にオファーできるドラマを調べさせます。
そして、サスペンスドラマのチンピラ役はどうか、と話す部下に対する轟のセリフがこれ。
本作品のタイトルである『左右田に悪役は似合わない』の伏線が回収された瞬間。
確かに、私自身も、これまで左右田の活躍、そして人柄を見るに、
堅い、そして誠実な役柄の方が、合っていると感じました。
その感覚が、ラストのセリフとの答え合わせのように昇華され、とてもスッキリしました。
3.まとめ
読んだことで得られたポイント
本作品は、ミステリの中でも「人が死なないミステリ」、日常の謎に分類される物語です。
死体を出さない日常の謎というミステリは、インパクトをどこで出すかが課題となる…と、個人的には考えております。
本作品は「芸能界における謎」という内容の濃さがインパクトの一つです。
そして、主人公がその芸能界を長年渡り歩いてきた、
端役ばかりのおじさん俳優という点も共感を呼びます。
「長年積み重ねてきた経験を活かす」というのは、読者にも共感できうる部分です。
日常の謎は、淡々と進みます。
そして、きらびやかな芸能界での出来事も、俳優たちにとっては日常です。
芸能界という特殊な環境であるはずなのに、その中で動く人の原動力や考え方に、
私はとても親近感を覚えました。
成り上がろうとする向上心、ジェネレーションギャップ、人間関係への苦悩、不具合を隠したい心理など。
誰もが多かれ少なかれ持つ感情がベースとなっているからこそ、親近感を覚えるのかもしれません。
この本は
・ミステリ好きな人
・人が死なないミステリが読みたい人
・人当たりの良い落ち着いた探偵役を求める人
におすすめな作品です!
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